大矢一穂 | Kazuho Ohya
開かれた城
January 16 – January 28, 2026
1:00pm – 7:00pm(Last day until 5:00pm)
MEDEL GALLERY SHUでは、1月16日より28日まで、大矢一穂の個展「開かれた城」を開催いたします。弊廊では4度目の個展となります。
本展は、これまでの大矢の物語性を内包した作品から一歩踏み込み、より直接的に自身が向き合うテーマへと探究を進めてきました。
今回の個展タイトルでもある作品《開かれた城》は、歴史上男性によって描かれてきた女性の身体を、女性である大矢自身の手でこの現代に再構築する挑戦です。
無意識のうちに形成された構造的社会通念は気付かぬうちに繰り返し私たちの心に侵食しています。その行為を、純粋に絵画へと向ける大矢の姿勢は、絵画行為に内包された時間の凝縮や、言葉以前の感情のレイヤーに色彩筆致そのものが働きかけてきます。ぜひこの機会に、ご高覧賜りますようお願い申し上げます。
展示タイトル「開かれた城」は、私が自身の体験を語った際、ある人物から投げかけられた言葉である。私はこの言葉に激しい怒りを感じた。それは私の告白を性的に意味づける暴力性を含んだ、あまりにも単純な言葉だったからだ。しかし同時に、この言葉は、私がどのように見られているのか——女性の身体が、つけられた傷さえも性的な対象として消費される社会の構造——を鮮明に示してくれた。
私が個人として体験するあらゆる出来事は、さまざまな経験を得て、形とすることができるようになる。「開かれた城」はネガティブな意図で発せられた言葉かもしれないが、私の記憶や価値観を他の価値観と綺麗に接続し、まさに私を正しく「開かれる」体験へと導いた。
私の絵画は、見られる身体である女性像と、見る主体である女性像の二つを画面に並べ、分裂と統合のあいだにある生々しいリアルを描き出そうと試みている。本展の起点となった「開かれた城たち」は、ピカソ「アビニョンの娘たち」をオマージュした作品だ。ピカソが20世紀初頭に女性の身体を冷徹に再構築したように、私は現代の女性像を、私自身の幼少期の記憶と、現在の私が置かれている身体的・社会的状況から、再び組み立て直す。
城は開かれ、一度開かれたものは元には戻らない。ただその中身を見ること、見られることでのみ、個人も社会も変わっていくことができる。
今回の展示が皆様の城を開くきっかけになれば嬉しいです。
大矢 一穂
MEDEL GALLERY SHU is pleased to present “The Open Castle,” a solo exhibition by Kazuho Ohya, from January 16 to 28. This will be her fourth solo exhibition at our gallery.
In this exhibition, Ohya takes a further step beyond the narrative-infused works she has developed thus far, delving more directly into the themes she confronts personally.
The centerpiece of the exhibition, also titled “The Open Castle,” is a bold attempt to reconstruct—through her own hands as a woman—the female body that has historically been depicted by men.
Social norms formed unconsciously and structurally have long infiltrated our minds without our awareness. Ohya’s approach, which channels these questions purely through the act of painting, allows the condensation of time inherent in painting and the layers of pre-verbal emotion to manifest through color and gesture.
We hope you will take this opportunity to experience her new body of work.
The exhibition title, “The Open Castle,” comes from a remark made by someone after I spoke about one of my personal experiences. I felt a surge of anger toward this phrase. It carried a violence that reduced my confession to something sexual—a disturbingly simple and objectifying interpretation.
Yet at the same time, the words starkly revealed how I was being seen: how women’s bodies—and even the wounds inflicted on them—are consumed sexually within societal structures.
Every event I experience as an individual eventually takes shape within me as I gain various experiences and perspectives. Although “The Open Castle” was spoken with a negative intent, it unexpectedly connected my memories and values to other frameworks, guiding me toward an experience that truly “opened” me.
In my painting practice, I place two figures on the canvas: the woman who is looked at, and the woman who looks. Through this duality, I attempt to depict the visceral reality that exists between fragmentation and integration.
The “Open Castles,” which serve as the starting point for this exhibition, are works that pay homage to Picasso’s “Les Demoiselles d’Avignon.” Just as Picasso radically reconstructed the female body in the early 20th century, I reconstruct the contemporary female figure from the standpoint of my childhood memories and the physical and social conditions that shape my present self.
A castle, once opened, cannot return to its original state. Only by looking—by being seen—can both individuals and society begin to change.
I hope this exhibition will serve as an opening of your own castle.
Kazuho Ohya
大矢一穂|Kazuho Ohya
1997年愛知県生まれ、同県在住。
2021年 金沢美術工芸大学 美術科油画専攻卒業。
油彩と身体表現を軸に、物語性をもつ絵画を制作。2019年より作家活動を開始。西洋の近世絵画から現代日本のアニメーションまでを参照し、「人間の物語」を描く。近年はとくに女性の身体表現と物語を主題とし、聖書から自身の体験まで幅広い参照源を取り込んでいる。
Profile | プロフィール
【個展】
2022年「円環からの逸脱」TURNER GALLERY(東京)
「エヴァの呼吸」MEDEL GALLERY SHU(東京)
2023年「Eye to eye, so alive」MEDEL GALLERY SHU(東京)
2024年「Re:presentation―心的表象の絵画—」MEDEL GALLERY SHU(東京)
【主なグループ展】
2019年「大矢一穂・松田菜美恵 二人展『おとめの排泄展』」アートベース石引(金沢)
2020年「KCoA SUPPORT PROJECT 展」金沢アートグミ(金沢)
2023年「Each Style, Each Way」NODA CONTEMPORARY(愛知・名古屋)
「Idemitsu Art Award 2023」国立新美術館(東京)
2024年「Hello」MEDEL GALLERY SHU NISEKO(北海道)
「絵画の徴」高島屋美術画廊(愛知・名古屋)
【主なアートフェア】
2023年 GINZA ART FESTA/松屋銀座(東京)
ART TAIPEI/台北世界貿易センター(台北)
【受賞】
2021年 TURNER AWARD 2020 大賞
2023年 Idemitsu Art Award 2023 入選
【その他】
2025年 クリエイティブ・リンク・ナゴヤ キャリアアップ支援助成採択
印象派やデ・クーニングから連なる筆致の身体性と、私の日常の観察、そしてフェミニズムの視点を重ねることで、現在の社会にある、見る/見られるといった構造そのものや、人と人のあいだに生まれる様々な距離と、距離や言葉が身体に刻む痕を表現する。社会のスケールで起きることは個人の身体に沈殿する。私は狭い生活圏で拾った出来事を、油彩という器に注ぎ直し、言葉になる直前の感情として共有したい。
幼少期から私の日常には秘密があり、知るには早すぎた「身体の現実」を抱え、育った。以来、私の身体は他人の視線、沈黙と喧騒のあいだで居場所を探しつづけ、安心と不安、親密さと拒絶を日常として生きてきた。
こうした過去を語ったとき、ある男性は私を「開かれた城」と喩えた。その喩えを聞いた瞬間、怒りと悔しさがこみ上げたと同時に、離れたいけれど近づき中身を知りたいという矛盾や、殴りたい衝動と諦めに近い静けさが一度に押し寄せた。私はその瞬間の速度と重さを絵画に翻訳し、彼にそう言わせたあらゆる社会通念と制度を作品の衝撃で抉り出したい。
このように、私が画面に留めたいのは、壮大な事件ではなく、一言で体温が変わるような出来事の連続そのものである。絵画は精神と身体の両方に触れる実践の場であり、「精神」と「肉体」が同時に目に見えるように立ち上がる場所だ。そこで私は、奪われた私本来の体験を見える形で取り戻していく。油彩の厚みや乾く速度から生まれる色や絵肌は、存在の物質的な実感や曖昧な距離を形とし留める。アニメ・漫画に由来するコマ割りのような線や構図は呼吸が絶たれる緊張感を生み出す 。そして胸・腰・手などの具象的表現は身体を標本のように固定し、対して線や色で表現される抽象的表現は、視線や気配といった流動するものとして存在する。このように現代日本の表象であるアニメ・漫画表現、静止と流動の間に、作られた痕と、その痕を作ったものに触れ返す意思を画面に定着させていく。
私は、自分の中にある矛盾、社会への怒りや、人間同士の愛情を信じる気持ち、そうしたものすべてを等身大で提示したい。鑑賞者がそれを見て、自分の傷や喜びと重ね合わせ、少しでも息がしやすくなるのなら、これほど嬉しいことはない。
